2008年 12月 02日
会えないひと
「・・・以来そのひととは会うことがない。その後も写真入りの茶封筒は送り続けられたが、あるときからぷつりとそれも途絶えた。ぼくはそのことが気掛かりでもなかったし、その後ギャラリーを閉めて仕事場を変えたとき、少し考えて、そのひとに無断で、届けられた多くのプリントを処分した。いまさら送りかえすこともないだろうと思ってたからだ。白い歯並びのイメージばかりで、もうそのひとの面影もさだかではない。まれに街なかの店先に栗を見かけた折、どうしているものかと、ちらりと思うことはある。きっと写真も止めてしまったはずだ。あの、トロッコの写った一枚の写真はよかったと思う。写真は孤独の友なのに。」
森山大道「もうひとつの国へ『宮益坂』」より
大道の文章は切なく美しい。自分だけに語りかけてくるような太宰的独占意識が働いてしまう。
私だけは解るわ、貴方の気持ち。貴方の感じた情景、貴方の切なさ、どうしようもなさ。
なんて、そんな事言いたくなってしまう。魅力的である。